【きものやまと】
逗子の花屋< 橘 >店主・橘優子さん × デザイナー・森智子 対談インタビュー
2022年12月、きものやまとは新たな振袖コレクションを発表いたしました。
私たちは振袖を「大切な節目にあるきもの」として、長く愛していただきたい、と考えています。
二十歳の節目だけでなく、40歳や80歳になっても、共に過ごしていく振袖をご提案したい。そんな想いから、今回の振袖ビジュアルでは幅広い年齢層の方にモデルとしてご参加いただきました。
モデルの1人としてご参加いただいた橘 優子さん。
神奈川・逗子の花屋< 橘(たちばな) >の店主である橘さんは、「面白いことがやりたい」と花屋でありながらも日々新しいことに挑戦し続けています。
“人との繋がり”を大切にする橘さん(以下、橘)の、働き方や考え方、振袖撮影の裏側など……きものやまと 振袖デザイナーの森 智子(以下、森)との対談を通して様々な話を伺いました。
振袖撮影について
――「振袖のモデルをしてほしい」とお話があった時、率直にどう思いましたか?
- 橘私も着ていいんだ! って素直に嬉しかったです。一般的に振袖は未婚女性のきもの、とされている中でそういう考え方を着物小売店から発することってなかなか無いですし、素敵だなと思いました。
- 森世の中にある「振袖は二十歳の式典の時に着るもの」という固定概念を壊したいな、打ち破りたいな、ということをものづくりを進めていく上で、ずっと考えていました。結果として二十歳だけじゃなく、40歳と80歳の方にもモデルとして参加いただいてこういうビジュアルを撮ろう、となったのですが、正直不安で……。でも実際に撮ってみたらすごく感動しました。
- 橘振袖の華やかさは未婚女性のものだけにするにはもったいないですよね。サクラさん(80歳モデルの方)もすごく素敵で。もっと広まってほしいな、と思いました。
- 森あの撮影を経て、振袖ってものすごい力があるかもしれない、と改めて感じました。撮影の時、社員もたくさん見にきていたんですけど、みんな感動していて。すごく良いものを撮影させていただきました。きものを扱う私たちが一番どこか枠におさまらなきゃ、と思っていて。撮影を通して気付かされることがいっぱいでしたね……反省です。
- 橘その“枠”って破っても誰も傷つけないし迷惑がかからないから良いですよね。可愛いし良いじゃん、って。
- 森その発想が良いですね。それくらいの感じできものは自由に楽しんで良いんだな、と思います。
異業種からの挑戦
――花屋を営まれる前は、広告の制作会社でお勤めになられていたとか。全く異なる業界へのチャレンジだったんですね。
- 橘仕事がハードで、体調を崩したことがきっかけで「このまま続けてはいけないな」と思ったんです。そこでこれまでの経験を全然違うことに活かしてみたいな、と。花は元々好きだったこともあるんですけど、花屋って比較的多様性がないんです。飲食店は多様な在り方をしていると思いますが、花屋はどこかトーンの「方面」が似ていて、売り方も含めて全然もっと違う感じのお店があっても良いし、やりようがあるなと思ったんです。
- 森そこで広告での経験をどう活かそう、と思ったのでしょうか。
- 橘広告は「何を伝えるか、どう伝えるか」が大事なので、伝え方や提案の仕方を考えてみたいと思ったんです。また、働き方の多様性も考えてみようと思いました。だから花屋を始めたきっかけも「自分の世界観を表現するお店が欲しくて」といったわけじゃなくて……。花でいかに仕事を続けていけるか、ということを考えて店をつくりました。自分のお店(個人経営)なら子どもが熱を出しても閉めることができるし、自分の都合でいかようにもできるようにしないとやっていけないだろうなと思いました。
- 森仕事をしていくうえで、「持続可能かどうか」が軸にあるということなのでしょうか。
- 橘まさにそうです。私もですし、働くスタッフも。
- 森スタッフさんといえば、家族経営では無いのに皆さん「橘姓」を名乗っていらっしゃいますよね。女性の生き方、あり方として苗字のことはいろいろ考えてしまいます。
- 橘そうですね、うちのスタッフは皆「橘さん」になります。店名でもある「橘」は私の母の旧姓なので、私も本当は「橘」ではないんです。現代の日本ではまだ女性の姓に関してはネックに感じるところもありますよね。自分と関係のない姓を名乗るのは意外と気楽ですよ。芸名に近い感じです。
- 森お仕事を変えられる発想も「橘」姓も、橘さんのお話を伺っていて、一女性としてなんだかわくわくします。
- 橘単なる思いつきですよ! 楽しければいいかな、という……(笑)。面白いことがしたいだけなんです。「自分の世界観を出したい!」と思って花屋を始めたわけではないので、「自分だけのお店」だとは思っていなくて。だからこそスタッフみんなには自分の店だと思ってお店の仕組みややり方についていろいろ提案してほしい、と日頃から伝えています。たくさん意見を出してくれるのでとても頼りにしています。
- 森言いたい事を言い合える素敵な環境なんですね。
やまとと共通する“チャレンジ精神”
- 森< 橘 >のInstagramを拝見していると、「なんでも楽しいことをやってみよう」というところが弊社とも似ているな、と思って。前向きにチャレンジされている姿がすごくかっこいいですし、勇気がもらえます。「学割」もされていますよね。
- 橘「花の学割」は2022年の4月から実施しているのですが、とても反響があります。近所の学生さんが母の日用に買いにきてくれたこともあります。逗子には外国の方も多く住んでいるのですが、この間は10代の女の子が買いに来てくれて、学生は半額だと伝えると「Crazy!」って(笑)。
- 森学生の頃ってお花に触れる機会が少なかった記憶があります。私は大人になってからお花をあげると嬉しいんだ、ということに気付きました。小さい頃からお花に触れるという体験は良いですね、豊かになるというか。
- 橘この辺り(お店の近く)のご両親はそのあたりを意識されているのか、一緒に選びにきてくれる親子さんが多いですね。男の子とパパで来てくださることも多いです。自分の好きなお花を選びたい方が圧倒的に多いので、つくりおきブーケは置いていません。
- 森相手を想いながら選ぶ時間って嬉しいですし、とても大切ですね。
――今までやったことないことに挑戦するって勇気が必要ではないですか。
- 橘勇気は多少必要ですけど、とにかくどんどん判断します。なんとかなる、うまくいかなかったら別のことすればいいかな、と思っていつも取り組んでいます。
- 森私は何か新しいことをしようと思っても一歩引いてしまうんです。今回の振袖ビジュアルも直前まで悩んでいて。でも、だめでもなんとかなるでしょ、ってことですよね! 今回はこういったビジュアルを出すことで、お客様の反応が変わることが分かって良かったなと思っています。チャレンジしてみてよかったです。
- 橘やまとさんは言わずとしれた老舗企業でいらっしゃいますし、素敵な商品なのでメッセージ発信のやりがいがありますよね。インパクトが全然違うと思います。これからもチャレンジ精神で突き進んで欲しいです。
――これからどのように歩んでいきたいと思っていますか
- 橘今いるお店の子たちが成長できるというか、すべて任せられるようになったらいいなと思ってます。人を育てることが今一番の楽しみですね。10年、20年も同じ場所で働こうってなかなか思わないじゃないですか。私はスタッフみんなのことが大好きで、友人みたいな感じなんです。経営者としてはダメかもしれませんが……好きな人と一緒に仕事をするのって楽しいですよね。このメンバーで長く仕事したいなと思っているから、そのために店が変わっていくことは良いと思っています。もしかしたら形態も変わってるかもしれないですね。
- 森世の中の変化に対応していきながら、ということですね。
- 橘最近よく思いますが、結局誰と仕事をするか、が一番大事だなと思っています。昔よく仕事をしていた人と最近また仕事をする機会があったのですが、すごく楽しくて。友人みたいな家族みたいな、仕事を一緒にするパートナーを大切にするべきだな、と。だから今のメンバーとずっと長く働けたらいいなと思っています。
- 森人との繋がりってすごく大事ですよね。
- 橘もちろん大前提としてその人の仕事のクオリティや信頼はもちろんあると思うんですけど、やっぱり私たちは人間だから「この人と一緒にする仕事は楽しい」っていう感情はあるじゃないですか。やっぱりそこが大事だなと思います。
- 森すごく仕事が出来て凄い人でも、冷たい態度を取られたら次一緒に仕事をするのは無理かも、って思っちゃいますよね。私も人の繋がりの大切さは、デザインの仕事をしていてすごく感じています。仕事を通しての繋がりってすごく面白いですよね。それまで出会うことのなかった人とも縁が繋がったりして、さらに良いものができあがったり。ものをつくったり企画したり、ってすごく面白いなって思います。
- 橘縁といえば、振袖のビジュアル撮影の時のカメラマンさんが、たまたま仕事で何度かご一緒して信頼している神ノ川 智早さんだったので、すごく安心できました。一緒に長くものづくりをしたことのある方は、自分にとってはとても不思議な絆を感じています。
- 森仕事って不思議です。社会に出てから今日も仕事か、と憂鬱に思う日もありますけど、人と人を繋げてくれて自分自身を成長させてくれる役割だったり……悪くないですね! 今ある環境をいかに活かすかが大切なんだな、と新たな側面に気付いた気がします。
――最後に、ハタチを迎えられた方々に一言お願いします。
- 橘「わがままになってほしい」でしょうか……。現にうちのスタッフはわがままな自由人しか居ないです(笑)。「わがまま」という言葉はネガティブな印象かもしれませんが、わがままになるには自分の本当の欲望を自分で理解している必要がありますから。自分の気持ちを、まずはいつも知っていてほしいです。あとは、ぜひいろんな人に会ってほしいですね。世の中の差別は無知がベースなので、いろいろな考え、いろいろな立場の人と出会うことは大切だと思います。
- 森知らない世界を知るって大切ですもんね。この短時間でも新しいものが見えましたし。私もわがままに生きます! 貴重なお時間をありがとうございました!
< 橘 >
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