大島紬を織る人(織工さん)の話
― 「本場奄美大島紬技術専門学院」生徒さん・先生 インタビュー ―



軽くてしなやか、体に寄り添う着心地で、多くのファンを魅了する大島紬。大島紬の特徴は、素材の絹糸を草木染と泥染によって黒く美しい光沢感のある色に染め上げる点、そして世界でも類を見ない精緻な絣模様です。
そんな本場大島紬の織工には、高度な技術の習得が求められます。また、出来上がるまでの30工程以上を全て手作業、且つ分業で行うため、企業単位での育成が難しいのが現状です。

本場大島紬の工程の一つ「製織」では、一人の“織工さん”が、1反13メートルを最初から最後まで織って完成させます。柄によっては1日に数センチしか織れないこともある根気のいる手仕事です。

実は奄美大島には、島内に大島紬の織を学べる学校があります。2018年7月に開校した「本場奄美大島紬技術専門学院」はその内の1つ。やまとが「後継者育成事業」の一環として支援を続けています。ここでは2年間、織の工程を学び、卒業後は織工として活躍される方を育成します。そして2021年7月7日、今年度の入校式が行われ、新たに3名の方が入校されました。

そして現在、7名の方が一人前の織工を目指して日々技術の会得に励まれています。

今回、大島紬を未来へ“紡ぐ”方々へ、お話をお伺いしました。

<お話いただいた方>



2年目
宇井 志乃さん


3年目
渡邉 明子さん


先生
栄 夏代さん



<織工さんの学校スケジュール>


ラジオ体操は栄先生の案で導入されたそうです。
機織りで凝り固まった身体をほぐすための、大切な運動です。




――入校を決めたきっかけを教えてください


宇井さん私は奄美大島出身で、子どものころは母親が自宅で機織りをしており、その時の雰囲気や織る音が大好きでした。古き日本の良い所というか、その時の記憶が印象的で、自分もいつかはやってみたいと思っていました。独身時代は保育士だったのですが、仕事柄手作りでものを作る機会が多く、その時に自分はものづくりが好きなんだ、と気づいて。でもその時は自分が機織りを始めるとは思っていませんでした(笑)。
渡邉さん私は元々東京に住んでいたのですが、昔から島暮らしに憧れがあり、夫の早期退職をきっかけに6年前に奄美大島へ移住しました。かつて趣味の旅行で沖縄に行った際、ミンサー帯の織を学ぶ「生徒募集」の文字を見て、興味が沸いて習いたかったのですが、島民じゃなかったので応募ができず…。でも奄美大島で生活する中で、この学校の生徒を募集する新聞記事を見て、絶対にやりたい!と思い入校を決めました。

――学校では、どのようなことを学ばれているのでしょうか


宇井さん機織りはとにかく“感覚”を掴むことが重要です。ひたすら織り、体で覚えていく…この繰り返しです。
渡邉さん学校は2年生までなので、実は私は卒業しています。今は学校の敷地で大島紬を織り、困ったことがあれば、(栄)夏代先生に助けていただいています。
栄さん大島紬は自分の感覚でしか織ることができないため、日々勉強です。また、自宅で機織りをする織工は多いので、独り立ちができるように、機織りの技術だけでなく、織る前の機準備もできるように指導しています。

――大島紬の魅力を教えてください


宇井さんとても軽くて丈夫なところです。柄は流行りすたりがないのも魅力的です。今日着ている大島紬は私の祖母が着ていたものなのですが、こうして世代を超えて譲り渡せるのも素敵だと思います。
渡邉さん一言では言えないです。「世界の三大織物」の一つと言えるだけあって、本当に奥深いものだと思います。それを習得できることはとても嬉しいです。東京に住んでいた際、百貨店の物産展ではみたことはあり、素敵だなとは思っていたのですが、こうして携わることができたからか、今とても愛着が沸いています。
栄さん大島紬は軽くて着やすいだけでなく、着崩れしにくいです。きものに関しては他には負けないと思っています。少々の雨が降っていても、安心して着ていただけるのも魅力の一つです。昔に作られた大島紬の柄も、とても素敵なんですよ。

――大島紬を織る際、大変だと感じることは何ですか


渡邉さんすべてが大変です(笑)。機織りはもちろんなのですが、機準備の「立て付け」という下準備が本当に難しいです。少しでも糸の順番を間違えると、後々大変なことになります。機織りの上で、基本中の基本なのですが、皆さんが苦手としていることだと思います。とても集中力がいるので、大変ですね。
宇井さん上手く織ることができたな、と思っても次の反物を織る時には失敗してしまったり…毎回上手くいくわけではないです。柄を表現していく「絣合わせ」や足元の操作が特に難しいです。これは本当に感覚の問題ですね…

――今後、どのような大島紬を作っていきたいですか


宇井さん私は今9マルキ(※)の大島紬を織っているのですが、これが本当に細かくて難しいです。最初は柄合わせが小さすぎて見えなかったのですが、不思議と織っていくうちに慣れてきて、だんだん見えてくるようになりました。まだ織り始めて2か月ほどですが、まずはこの反物を織り切ることを目標としています。
栄さん生徒の皆さんには、何でもいいから挑戦するように言っています。簡単な柄ばかり織っていても上達しません。自分に自信を持たないと大島紬は織ることができないので、きっと生徒の皆さんは様々な柄に挑戦したいと思っていると思います。

※マルキ…縦絣糸の本数の単位のこと。1マルキ=80本。マルキが大きいほど、絣糸の密度が高くなり、繊細で精密な柄になります。

――最後に、皆さまへ一言お願いいたします


宇井さん1反1反織っているうちに、どんどん愛着が沸いてきて、わが子を育てるような気持ちになります。愛情たっぷりで織っているので、是非大切に着ていただきたいです。
栄さんよく「どこに着ていけばいいですか」というお声をいただきます。ぜひ、どこにでもいいので着てお出かけしてください。私はよく、披露宴の時にも着てください、とお伝えしています。袋帯を締めると、お呼ばれの席にもぴったりです。きっと周りの方にもお喜びいただけます。たくさん着ていただけることは、私たちも大変嬉しいです。



「いつかは大島紬も絶滅してしまう可能性がある。だが、今なら大島紬を未来へ残すことができる」

そう語るのは、本場奄美大島紬技術専門学院の“校長”であり、本場奄美大島紬協同組合理事長の牧 雅彦さん。
奄美大島の伝統産業である大島紬を、未来へ繋げるべくご尽力されています。

分業で作られる大島紬は、織工がいないと商品にはなりません。また、商品を手にする機会がないとものづくりは続けられません。

これからもやまとは産地の後継者育成事業の支援と、産地とお客様を繋ぐべく大島紬の魅力を発信し続けてまいります。

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