【S-SAP協定締結】
渋谷区 区長・長谷部健 × やまと 代表取締役・矢嶋孝行 スペシャル対談

 2022年5月19日(木)、株式会社やまとと渋谷区は、区内に拠点を置く企業や大学等と区が協働して地域の社会的課題を解決していくために締結する公民連携制度である「シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー協定」(以下 S-SAP協定)を締結しました。

S-SAP協定締結を記念して、渋谷区長の長谷部健さん(以下、長谷部)と、やまと 代表取締役の矢嶋孝行の対談を通して、これからの取り組みについての意気込みを伺いました。

やまとと渋谷区の取り組みのはじまり

――長谷部区長には、本日きものを着ていただきました。きものを着てみていかがですか?


長谷部引き締まりますね。自分でも意外に似合ってるかもなって、思っています(笑)
矢 嶋とてもお似合いです。ぜひ、きものを着ていただきたいです。
長谷部機会があったらぜひ着てみたいなって思いますね。選んでいただいたこの色もすごくよかったです。きものは新潟で、羽織は丹後ですかね。柄も、昔からある柄なんだろうけれど、今風な感じで心地いいです。
矢 嶋ありがとうございます。きものは新潟県の十日町紬、羽織は京都の丹後御召です。私たちは顔が見えるものづくりを大事にしていて、きものを見れば、顔が浮かぶんですよ、つくってる人たちの。今も浮かんでいます。

――では、お二人の出会いについてお聞かせください


長谷部はじめてお会いしたのは、2~3年前ですかね。
矢 嶋そうですね。2年ほど前に、同じ高校出身の知人を通して出会って、そこからです。
長谷部その時の矢嶋さんは、きものにハットを被っていて、大正モダンみたいで素敵でしたね。こういう着方があるんだなって、見て思いました。すぐにきものに興味を持って、近所にあるTHE YARDのショップを覗きに行きましたよ。
そのときに、障がい者の方にもきものを着ていただきたいとか、話を伺いましたね。
矢 嶋私たちは健常者を中心に物事を考えてきたなという反省がありました。これを気づかせてくれたのは5年ほど前に入社した新入社員だったんです。彼女は「障がいがある人にも振袖を着てもらえるようにしたい」って話してくれたんです。そもそも文化ってすべての人に優しく寄り添うものであってほしい、こうしなきゃダメ、あれはダメではなく、時代に合わせて人々への寄り添い方が変わり変化していくものだと思うんです。障がい者の方へ取り組みをしたい、って長谷部さんにご相談して2つ返事をいただいてとても嬉しかったです。
長谷部それからすぐに行動に移されて実現したので、すごく感謝しています。
渋谷区としても、本当はこのコロナ禍でなければ、観光客などへの発信も含めて、もう少し色々と日本文化の発信もやりたいと思っていました。これから色々なことができそうだなって、矢嶋さんにお会いしたい時に思いました。
矢 嶋なにげない話から、アイデア出しができましたよね。
渋谷区が取り組まれている「シブヤフォント」もとても面白いと思っていて、海外からの観光客向けに例えばシブヤフォントのハチ公を手拭いにしてみるとか、ゆかたにしてみるとか。始まりは小さいかもしれませんが、買い物する人も、デザインした人も嬉しい取り組みに繋げられたらと思っています。


≪参考≫
・2021年10月に開催した、障がいを有する新成人へ向けた「ハタチの記念撮影会」


ヘアメイク アトリエはるか/ルアール東郷にて実施



・シブヤフォント
渋谷でくらし・はたらく障がいのある人の描いた文字や絵を、渋谷でまなぶ学生がフォントやパターンとしてデザインしたパブリックデータ。さまざまなモノやコトに使われることで、より多くの人に渋谷を好きになってほしい、シティプライドを感じてほしい、そして障がいのある人の活動を知ってほしい。こうした願いから生まれた渋谷発・日本初のソーシャルアクション。
https://www.shibuyafont.jp/

シティプライドが芽生えた高校時代

――同じ高校出身のおふたりですが、高校時代の思い出などお聞かせください。どんな高校生でしたか?


矢 嶋長谷部さんは、部活には所属されていましたか?
長谷部最初は野球部にいて、1年もたたずに柔道部になりました。部活でスポーツもしていましたし、高校は体育の授業が一番楽しかったです。
矢 嶋僕も部活ばっかりやっていました。あの、円形校舎が懐かしいですね。
長谷部そうそう、円形校舎でしたね。
あと、制服で言うと、蛇腹の制服でしたよね。ボタンじゃなくて、ホックの詰襟で。紺色の海軍士官学校みたいな制服でしたね。
矢 嶋あの制服、僕は大好きでした。
長谷部そう、僕も好きでした。いい制服だなって思っていました。
僕は、原宿が地元なんですが、杉並区の学校まで自転車で通っていたんですよ。電車だと結構大変で、乗り換えなどしていると小一時間くらいかかっちゃいますから。自転車だと30分弱くらいで着いちゃうんで。それで、まさに、この千駄ヶ谷辺りも通ったり、本町の方を抜けて行ったり。3年間の通学の間に都庁が出来上がりました。
矢 嶋建設中だったんですか?
長谷部そう、建設中だったんです。ちょうど卒業するときに出来上がりましたね。まさに、通学路だったな。
高校に入ってから、どこの中学出身か聞かれることが多々あって、「原宿中」だよと答えると、へえー!って驚かれたりして。
矢 嶋原宿・渋谷・新宿が遊び場で、みんなのあこがれでしたから。
長谷部中学の時には気付かなかったけれど、高校で初めて渋谷区から出て、そういうふうに皆に「いいな、いいな」って言ってもらえると、僕も嬉しくなって。自分の中で、シティプライドが高まっていくきっかけになったのかもしれません。
矢 嶋そこで育ったわけですもんね。

合言葉は「ちがいを ちからに 変える街。」

――そんな思い入れのある地元・渋谷区で区長になられて、「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」の実現に向けて取り組まれていることをお聞かせください。


長谷部区長になって8年経つんですけど、最初の1年をかけてこの言葉を生みだしました。審議会をつくっていろんな人から意見をもらったりもしました。これは基本構想で掲げる、渋谷区の政策の最上位にくる未来像です。まずは、それをつくったんです。

当時はまだ、多様性とかダイバーシティとか、議会にも“?”という感じの人も正直いましたし、区の職員にもそういう人が大勢いました。しかし、基本構想が決まってくると、だんだん皆もその言葉を理解をして引っ張られていく感じがありました。それは本当に役所のすごくいいところだと感じていますし、それで、徐々に変わりだしたなっていう実感がありました。今は、全ての様々な政策において、基本構想は意識してもらうようにしています。

たとえば、本当に細かいことでいえば、スポーツウォッチの例があります。
泳いでいる距離などをカウントできるようなスポーツウォッチがあって、視覚障がいのある人にとってはすごく便利なんです。今どれだけ泳いでるよとかが分かる。ただ、禁止にしているプールも多いんですよ。
だけど、基本構想をつくってから、区のスポーツ施設の職員から「カバーをつけたスポーツウォッチなら使えるようにしましょう」といった声があって、ルールを変えました。
他にも、LGBTQの人たちに向けて発行されたパートナーシップ証明について、職員が「自分たちの部署ではどういう扱いにしたら良いか」など積極的に話し合ってきたりしました。
だんだんと、僕が言うだけじゃなく、職員などが自発的に考えている姿を見るようになってきたので、すごく心強いなと思うし、基本構想の言葉を掲げたおかげで、動き出したなって非常に感じています。やはり言葉の持つ力ってあるなと思っていて。
矢 嶋基本構想で「ちがいを ちからに 変える街。」を掲げられたということは、そもそも“多様性”という言葉が長谷部さんのイメージの中にあったということですよね。
長谷部そうですね。
矢 嶋今でこそ、多様性ってすごく耳にすると思いますが、当時すでに長谷部さんがそこを意識したきっかけはありますか?
長谷部当時もう“多様性”という言葉は言われていたと思うんですよね。ダイバーシティって言葉も当然ありましたし。特別早かったって感じはないですね。ただ、間違いなく今よりもちょっと浮ついた言葉に聞こえていた時期ではあったと思います。
僕自身、色々な機会に海外の都市に行った際に、多様な価値観や多様な人たちがたくさんいる世界を見てきて、そのエネルギーを渋谷区にも感じていました。そういう環境で育ったことは、無意識に多様性に対する意識を持つきっかけになったのかもしれません。
矢 嶋まさに多様性の街ですよね。
長谷部そうなんですよね。実際、渋谷区の成り立ちを見ても、区政90周年と言いましたけど、その前っていうのは東京都豊玉群でした。千駄ヶ谷町、代々幡町、渋谷町っていう3つの町が合併して渋谷区になったんですが、当時はまだ人口も少なかったんです。江戸っていうのは赤坂から海の方を言うので、こちらは野っ原で武蔵野の田舎でした。そんなところに大正時代から、どんどんどんどん人が集まりはじめて、明治神宮ができました。ちなみに明治神宮は今年で102年なんですよ。
本当にこれから作られていく町なんです、渋谷は。日本中から色々な人が集まって、交じり合っていっているというのは、僕自身もこの町で生活していく中で感じています。実は、祖父と祖母が戦前に長野から出てきているので、地元と言っても僕が3代目なんです。
矢 嶋長野からなんですね。
長谷部そうやっていろんな地方都市から出てきている人たちが作っている町なので、鎌倉や京都と違って何百年の歴史があるわけではないんですよね。一方で、それがうまく交じり合っている理由だとも思うんです。若い人たちがやってきても、自分たちも地方から出てきているもんね、って受け入れる側にもどこかそういう思いがあるのかもしれないです。
矢 嶋許容してくれるというか。包み込んでくれるというか。
長谷部受け入れる土台があるということ、それは都市の良さだと思います。世界中を見ても、ロンドン・パリ・ニューヨークのような国際都市にもそういうところがありますし。
矢 嶋たしかにそうですね。
長谷部区長になった時、「ロンドン・パリ・ニューヨーク・渋谷区」って言ったんです。ニューヨーク・渋谷区で一応韻を踏んでみたんですけど、そこは皆に伝わらなかったのですが(笑)
矢 嶋どこかで見ました(笑)ニューヨークと渋谷区って。さすがだな~って思いましたよ。
長谷部そこは細かくて伝わりませんでしたね(笑)
でも、「ロンドン・パリ・ニューヨーク・渋谷区」を掲げたことで、なんだか街の人も区の職員も目線が世界を向いたのは良かったですね。
矢 嶋言葉の力とかもそうなのですが、企業のブランディングに似ている点が多いなと僕は思っていまして。長谷部さんと初めてお会いした時に、僕自身が持つ行政のイメージとは、全く違うことをお話しされる方だなと思っていました。街のブランディングとか、みんなの意識を変える言葉をつくったりだとか、キャッチフレーズづくりとか、すごく僕は参考にさせていただいています。
長谷部ありがとうございます。
矢 嶋そして言葉だけではなく、それを形にすることが重要な気がしていて。渋谷区との取り組みである、障がいを有する新成人の方の撮影会とか、それって世の中に対してのアクションでもあるんですけど、社員に向けたアクションでもあると思っていまして。私が社員に「お互いの個性を認め合う社会をつくりましょう」って言葉だけ発しても、その通りだよねって思うけれど、じゃあ会社何やるの?となると思うんです。ただそこに、具体的なアクションが1つ、ポンって出るだけで、本当に私たちやるんだよねって空気ができると思っていて。昨年あの撮影会を開催できたことはやまとにとってすごく大きな意味がありました。言葉にした以上、行動をしないと誰も信じてくれない。言葉と行動をセットでやらなければと思っています。
長谷部具体的に渋谷区でそういったアクションをやっていただけているので、感謝しています。そういった会社だということを皆に知ってもらえると、やまとファンも増えそうですね。

S-SAP協定に期待すること

――やまとがS-SAP協定に期待することはありますか?


矢 嶋障がい者の方への取り組みを続けていきたいと思っています。あとは、こどもたちですね。こどもたちを大切にしたいです。子供のころの記憶ってすごく大切だと思っていて。日本の文化っていうものはどちらかというと、固いイメージで、厳しくて敷居が高い印象があると思うんです。でも実際は、文化って世の中の人にとって優しく寄り添っているものだと私は思っていて、だからこそ文化が存在しえるとも思っています。だから、こどもたちへ、こういう文化的なものは、実は楽しくて面白いものだよっていうことを伝えることができないかなって思っています。これから渋谷区と一緒に何かできないかなって考えています。
長谷部ぜひぜひ。渋谷区って、先ほど新しい町だって言いましたけど、そんな中でも、日本の文化がそれなりにある町でもあります。この近くでいうと、将棋連盟や、国立能楽堂があります。将棋会館の横にある鳩森神社には野外の能の舞台があって、先日はすぐ側にある鳩森小学校の生徒がゆかたを着て連吟を披露してくれました。薪能の前座ということでやってくれたんです。まさに、やまとの本社に近い小学校がそういうことを取り組んでいたりしますし、何かうまく一緒に出来ればいいなと思います。

服部栄養専門学校さんとも連携していて、学校給食のレシピなどを考えてくれています。その時に「和食」といったテーマがあっても面白いですね。可能性は広がりますね。

――次に、渋谷区からやまとに期待することってありますか?


長谷部渋谷区でもっときものを着る人を増やしていきたいですね。そういう街の景色を見たいと思っています。渋谷区で働いている若い人たちからもゆかたを着たいっていう要望はあるので。
矢 嶋ゆかたの日、渋谷区ゆかたの日とかも面白そうですね。
長谷部その他にも、参道に絡めたおみやげなどもつくれたら面白いなと考えています。これから、この町は更に変わっていきます。
たとえば、これから西参道をもっと魅力的にしていこうとしています。鳥居の前の参道は補修が終わっているんですけど、今度は甲州街道の方まできれいな参道にしようとしています。今は高速道路の下を自転車置き場にしてしまっているので、コンテナを置いてカフェを運営したり、将棋連盟と組んで“見る将”の聖地にしてスタジオをつくったり、参道にそうやって和の文化をつくろうとしているので、一緒に何か取り組めたら面白いですね。

その先の緑道も、本年度から工事に入ります。全部で6年くらいかかる予定ですが、そこでは「FARM」というテーマで、畑をつくったりもします。「FARM」って“育成する”という意味もあるので、コミュニティを作ったり何かを育む場所にできたらとか、今いろんなアイデアが集まっています。ニューヨークのハイラインに肩を並べるような整備をするつもりでいます。
矢 嶋ニューヨークのハイラインですね、わかります。
長谷部目線は、住民のための開発です。もっと古いものと新しいものとが混じっていくことを良しとする気風でやりたいと思っているので、ぜひよろしくお願いします。
矢 嶋ぜひ、私もできることを考えます。今後ともよろしくお願いします。