【ようこそ、大人へ。】
監督・瀬田なつき × やまと 代表取締役社長・矢嶋孝行 スペシャル対談

2022年1月、1本の短い動画が公開されました。

『ようこそ、大人へ。』

それは、成人の日を迎える新成人に向けて、やまとが伝えたい想いを形にした動画でした。

そのメガホンを取ったのは、映画監督の瀬田なつきさん。“実は恥ずかしがり屋”が共通点の瀬田さん(以下、瀬田)と やまと 代表取締役社長・矢嶋孝行(以下、矢嶋)の対談を通して、動画制作の裏話をお伺いしました。

ブレない想いを届けたい

――まずは、お二人の出会いについてお聞かせください

矢嶋動画を作りたいってなった時、まず兼ねてよりお世話になっているカメラマンの新津保健秀さんにご相談させていただいて。そこで瀬田さんをご紹介いただいたんです。その後新津保さん経由でご連絡いただいて……お話聞いた時ってどんな感じでした?
瀬田新津保さんから久しぶりに電話いただいて、「きものの会社のムービーを撮ることになったんだけど、どう?」って。その時は新津保さんもまだよく分かってないような感じで(笑)。具体的な内容はその時聞いていなかったんですけど、新津保さんからのお声掛けなら「ぜひ!」って。まずは話をお伺いしようと思ったんです。
矢嶋実際にお声がけさせていただいたのは2021年の11月中旬でしたよね。その時から動画の公開は成人の日に合わせるつもりでいたので、かなり無茶なスケジュールだな、と思いながら打ち合わせをさせていただいた記憶があります。
瀬田時間的にはかなり迫られていましたね。
矢嶋正直、お断りされるんじゃないかなって思っていたんです。時間的にも動画を作成するのは難しいかな、って思っていて。
瀬田そうだったんですか! 私と新津保さんは当初から面白そうだな、と思っていましたよ。
――実際の打ち合わせはどのように進んでいったのでしょうか

瀬田企業さんから動画のご依頼をいただく場合って、広告ものが多いので最初からガッチリ内容が決まっている印象で。かつ広告代理店さんも仲介されるから間に人もたくさん入っているイメージだったんですけど、今回はそれが一切無かったんですよね。初回から矢嶋さんが「こういうのをやりたい!」って想いをはっきり話してくださったので、シンプルに分かりやすかったです。
矢嶋どうしても、すべての打ち合わせに参加することは難しいのですが、初回の打ち合わせと、ここは肝だな! というタイミングのときは絶対に参加するように心がけていますね。あとはいわゆる代理店に丸投げは絶対にしない。これは非常に大切な気がしていて。
瀬田代理店の方に入っていただくメリットはもちろんありますけど、直接やり取りさせていただいたからこそ、ブレない想いっていうのは伝わってきました。
矢嶋出来上がった時の愛情も変わりますし、多少荒さがあったとしても、それひっくるめて私たちの姿だから、それでいいと思います。僕も直接関わらせていただいた方が、自信をもって社員や世の中に発信ができるというか。
瀬田細かい意図やニュアンスも直接確認させていただけたことは大きかったように感じます。
――そもそも、瀬田さんにお願いしようと思ったきっかけはあったのでしょうか

矢嶋新津保さんからご紹介いただいた時、まず瀬田さんの過去の対談やインタビューを読ませていただきました。いろいろインタビューなども読ませていただいたのには理由があって。もちろん新津保さんからのご紹介だったので安心はしていたのですが、最後は絶対僕から「この人がいい!」ってお願いしたかったんですよね。結果、瀬田さんであれば、僕のつたない想いも汲み取ってくださるんじゃないかな、って勝手に思ったんです。
瀬田嬉しいです。インタビューや対談の記事って気恥ずかしいですね。自分の過去の記事をなかなか読み返せないんです。
矢嶋僕もなんです。僕はあまり自分から出たいタイプではないので、こういった対談や取材も得意ではないんですよね。
瀬田カメラの前で演技までする役者さん達ってすごいな、っていつも思います。インタビューなどの動画は、自分の声を聞き直すのも辛くて。今回の動画は、ナレーションをハンバートハンバートの佐藤さんにお願いする前に仮撮りで自分の声を入れていたんです。編集する内に「ここはもう少しテンポよくしたい」とかだんだんこだわりはじめちゃって。
矢嶋あの瀬田さんのナレーションを聞いて、僕はすごくいいなって思っていたんです。何十回も聞いたので、僕の中で当初ナレーションは瀬田さんのイメージが沁みついていましたね。
瀬田本当ですか。こだわりはじめた辺りから、恥ずかしさもあって他の人に頼めばよかった、ってちょっと後悔していました(笑)。


“アナログ”だったからこそ、温かい動画になった

――今回の動画制作にあたり、心がけていたことはありますか

瀬田あまり説明的というか、感情を押しつけるような感じにはしたくなく、かつ、くどくならないように意識してはいました。今回はすでにコピーライターの岩崎亜矢さんが作成されたステートメント(メッセージ)が最初からあったので、そこから発想していきました。ステートメント自体は「大人と子供」の対比がすごく印象的だったので、ストーリー仕立てにするというよりかは、「成人の日」「きもの」「ハタチ」といったキーワードを拾ってイメージしていくような形にしました。でもあくまで今回は「成人の日」がメインだったので、「きもの」ばかりが映ってしまわないように意識はしましたね。



――agraphの牛尾憲輔さん作曲のオリジナル音源が映像にとてもマッチしていましたよね

矢嶋正直ここまでの凝った動画は想定していなかったです。
瀬田実は岩崎さんのステートメントを読ませていただいた時点では、なんとなく浮かんだイメージはありつつも、まだぼんやりとしたものだったんです。そこから制作陣みんなでアイデアを出しあっていると、動画内の音楽の重要性に繋がって。結果として、音楽をオリジナルで牛尾さんにお願いして、言葉と映像に寄り添った曲を作っていただきました。かなり自由にやらせていただけたのは大きかったですね。
矢嶋あのような方法で動画を作ることはありますか?
瀬田あのスピード感はなかなか無いですけど、1ヵ月の期間で作るとしたらベストな方法だったと思います。
矢嶋そうなんですね。実は社内で動画を作ろうって話が持ち上がった時に、僕は正直時間的に無理だと思ったんです。「間に合わないでしょ!」って。
瀬田私も不安には思っていました(笑)。
矢嶋ただ、一番の救いはみんなが「できる」という空気を作ってくれていたことですね。最初に社外の方でご相談させていただいたのが新津保さんだったのですが、間に合わないよね、という感覚は一切おっしゃらなくて。「僕このスケジュール空いているよー」ってなんでもないように言ってくださったんですけど、その言葉からギリギリでも間に合うのかなって解釈しました。その後も制作陣はみんな「無理」「間に合わない」とは言わなくて。それで実際に動画が完成できたんだから、本当にありがたい限りです。



――動画の制作を終えていかがですか

瀬田公開が成人の日直前だったんですけど、成人の日が過ぎ去ってしまうことが少し寂しかったです。
矢嶋年末年始駆け抜けましたもんね。僕もひと段落ついてからは抜け殻のようになっていました。
瀬田キャスティングも、みんなで「周りに新成人を迎える人はいませんかー?」って聞いて回りましたもんね。かなりアナログでした。
矢嶋その作り方が結果として温かい動画になったのかな、と思います。リアリティはとても大事にしたかったので。今回ご出演いただいた方々は実はリアルなご家族や身内の方がほとんどだったので、現場の空気づくりも良かったですよね。
瀬田おかげでカメラを向けた直後でもスッと自然な画が撮れました。今回は本当にタイトだったのですぐにカメラを回すことになっても、ご家族だからこその誠実な距離感に助けられました。
――制作の前後できものに対するイメージに変化はありましたか

瀬田打ち合わせやロケ撮影中でもやまと社員の方が、きものをナチュラルに着ていらっしゃって驚きました。それまではどちらかというと、式典に着るものとしての認識が強かったので。
矢嶋私たちは、普段から気軽にきものを着ている会社だと思います。式服としての用途はもちろんなのですが、もっとたくさんの方にきものを肩ひじ張らずに楽しんでほしいんです。もちろん、毎日着ているわけでも、着ることを強制しているわけでもないです。瀬田さんは成人式にきものをご着用されました?
瀬田成人式は祖父母が、振袖を作ってくれて。その着物は、親戚間でもまだ引き継がれています。きものはそれ以来縁がなかったので、今回お声がけいただいたことはとても嬉しかったです。

映像の世界で20年……見る人の想像を超えたい

――ハタチからこれまでの歩みについて教えてください

矢嶋そもそもなぜ映像の世界に飛び込もうと思ったんですか?
瀬田映像は大学の時から始めたんですけど、映像を学ぶ学科にいたわけではなくて。でも映画や映像はずっと好きだったんです。それで、映画の批評を専門とする先生のゼミに入ったんですけど、好きな作品を学問的に見ることで、それまでなんとなく面白い、と感じていたことも「なぜ面白いのか」が分かるようになって。それで批評を書いたりしていたんですけど、どういう意図でこのシーンを撮っていたんだろう、ってだんだん気になってきて。実際に撮ったらわかるのかな、って考えるようになったんです。
矢嶋それはおいくつの時ですか?
瀬田大学3年生の時ですかね。その後、大学院へ進学したのですが、修了作品を観てくださった映画プロデューサーの方から「映画を撮りませんか」とお声がけいただいたんです。それで「ぜひ!」と。好きなことを続けていたら、周りの繋がりで作品を作り続けられて。今回も様々なご縁からお声がけいただいたことは本当にありがたいです。
矢嶋すごい夢のような話ですね! 瀬田さんと一緒に仕事をして思ったのですが、決して口数が多い方ではなくて、でも、その少ない口数の向こうに見えている景色が見てみたいって思うんです。瀬田さんの映画を見て、瀬田さんは一体何を考えていたのだろうって。きっと、私が、何かの話の中で「わかります」って言って私の頭に浮かんだ絵とは違う何か見えてるモノが瀬田さんにはあるんだろうなって、それをもっと見たいって思うんです。
瀬田ありがとうございます! 見る人の想像をちょっとでも超えるものを作っていけたらと、思ってはいるので、すごく嬉しいです。
矢嶋いずれにしても、映像は約20年間続けられているということですよね。
瀬田今お話しながら、人生の約半分で映画や映像に携わっていることにびっくりしました。その場ではいつも反省ばかりで成長しているのかと。
矢嶋そんなに反省するんですね!?
瀬田反省だらけです(笑)。100点みたいな気持ちになるときは来るのかなーって。その時その時はいつも一番良い選択をしているつもりなんですけど、振り返ってみると「もっとこういう風にできたかもしれない、次回こそ」って思うことばかりです。
矢嶋僕も反省ばかりで。20代の時は特に落ち込み屋さんでした。今でも後悔と反省と、どちらかというとできなかったことに目が行っちゃうタイプですね。
瀬田分かります。もしかしたらみんなそうなのかもしれないですね。
矢嶋僕、実は “メンター”みたいな大先輩がいて。月に1回くらいその方に話を聞いてもらって、引き上げて戻してもらっているんです。
瀬田気になります! 是非その方にお会いしてみたいです。
矢嶋基本はポジティブですし、ネガティブな言葉は使わないって決めています。でも実は、僕はできなかったことばかりに視点がいってしまうので、いろいろ考えてどんどん落ち込んでしまうんです。でも一方で、できていたことがあるはずだって教えてくださるのがその大先輩なんですよ。瀬田さんはどのようにして気持ちを保っていますか?
瀬田その時はその選択肢に気づけなかったけど、あの時できうる限りの、最善の選択ができたはずだから、次に活かそう、って自分を励まします。今回の映像に関しては……。
矢嶋それ以降は今度ご飯の時にでも聞かせてください(笑)。

臆せず、チャレンジし続ける

矢嶋瀬田さんでも落ち込むことがあるというのは、いろんな方に勇気を与えてくれる気がしますね。
瀬田私は矢嶋さんの常に選択をし続ける状況に身を置かれていることが本当にすごいなって思います。あと、今回一緒に仕事をさせていただいて、選択の判断が早いなって感じました。
矢嶋本当ですか?
瀬田すごくスピード感を持って判断していただきながらも指示が的確で。とてもやりやすかったです。
矢嶋ありがとうございます。でも全然自信はないんですよ。最終的には僕が決断をしなきゃいけないとは思っているんですけど、せっかくチームを組んでいるのであれば、みんなの意見を集めて、最後にまとめれば結果として面白いものが生まれると思っていて。
瀬田その中でも「ここはお任せします」って言ってくださるところがあって。その一言はとても心強かったですね。
矢嶋社外のクリエイティブの方とお仕事する際、そこは心がけているかもしれないです。もちろん自分の中でのアイデアが0ではないんですけど、それは初めに言わないようにしようと思っていて。基本的には相手の方が投げてくださるアイデアに乗りたいと思うんです。みんなの意見を丸めた団子だけの状態にはしないようにしようと心がけてはいますけど、それが上手くいかずにへこむことが多いんですよね……。もっとみんなの意見を引き出せなかったかな、と思うことや、あるいは「今この人に忖度しちゃったかな」って反省することも多くて。
瀬田それも分かります。一晩考えて選択すればよかったな、って思ったり、あの場面ではもっと主張した方が良かったかな、って思ったり。難しいですね。
矢嶋大人になってからどれだけ月日が経っても、誰しも落ち込むことは多々あるよ、ってことですね。



――最後に、瀬田さんが今後チャレンジしたいことを教えてください

瀬田何でも臆せずやってみたいな、と思っています。どんどん新しいことに挑戦したいですね。今回の動画はきものに携わる撮影だったので、きもののことを少しでも知ることができました。今まで関わらなかったものの違う見方や新たな側面を知ることができたのは大きかったですね。そういうことをどんどん知りたいなと思います。
矢嶋瀬田さんの動画のテンポ感がすごく好きで。是非また一緒にお仕事したいです。日常にきものが溶け込んでいる人たちのショートムービーとかどうですか?
瀬田ある1日に密着したドキュメンタリー風の動画も面白そうです。ぜひ、アイデア出し合いましょう!


【瀬田なつきプロフィール】

大阪府生まれ。横浜国立大学環境情報学府修了後、東京藝術大学大学院映像研究科を卒業。『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(2011)で商業長編映画デビュー。主な監督作品に、『PARKS パークス』(2017)、『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020)、ドラマ『セトウツミ』(2017)、『声ガール!』(2018)、『カレーの唄。』(2020)、『あのコの夢をみたんです。』(2020)などがある。最新作に、Amazon Original映画『HOMESTAY』(2022)。