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2026.06.01

『 絞り染め - 千年の記憶 括り出される稜線の瞬き - 』
『 絞り染め - 千年の記憶 括り出される稜線の瞬き - 』

EVENT REPORT

『 絞り染め - 千年の記憶 括り出される稜線の瞬き - 』

2026年4月29日(水)~5月6日(水)の期間、活動拠点であるアトリエギャラリー YAMATO Lab. TOKYOにて『絞り染め ― 千年の記憶 括り出される稜線の瞬き ―』を開催しました。

本展では、絞りゆかたの「さんち」として株式会社やまとと共にものづくりを行っている、愛知県・名古屋市「有松・鳴海地区」の職人の方々のご協力もと、「絞り染め」の歴史やものづくりの背景、つくり手の声をお届けしました。

布を括り、染め、ほどく――。
その工程から生まれるのは、ひとつとして同じもののない表情です。

そこには、つくり手の手触りや土地の知恵、積み重ねられてきた時間が自然と宿り、手仕事ならではの揺らぎが、装う人それぞれの日々に静かに寄り添います。

絞り染めとは

古くから世界各地で行われている染色技法です。
奈良時代の日本には、既に中国から高度な染色技術が伝来していました。東大寺 正倉院の宝物の中にも、纐纈(こうけち)(絞り染め)を用いた染織品が保存されています。

布の括り方、縫い方、ヒダの取り方によって多彩な模様を描き出すこの技法。
有松・鳴海地区では、かつて「括り」の種類が100種を超えるとも言われており、現在も約70種類の技術が受け継がれています。

その価値は国内に留まらず、1992年には名古屋で「第1回国際絞り会議」が開催され、20か国が参加。
絞り文化を未来へとつなぐ、国際的な交流も続いています。

天井から吊るされた沢山の絞り染めと暖簾。有松鳴海地区の風景写真や制作過程で実際に使われている道具たちを展示した空間。

会場には、絞り染めのテキスタイル展示や技法の解説、括り道具の紹介、有松・鳴海さんちでのインタビュー動画の上映。

人の手を介して生まれる価値と、時間をかけて育まれてきた技術を現代へとつなぐ営みを、間近で体感いただける空間が広がり、さまざまな括りによって生まれる絞り染めの豊かな種類や、一点ごとに異なる表情をご覧いただける機会となりました。

日本遺産に認定された構成文化財、名古屋市有松伝統的建造物群保存地区

有松・鳴海地区の歴史は、慶長13年(1608年)東海道の鳴海宿(なるみしゅく)池鯉鮒宿(ちりゅうじゅく)の間に、間の宿(あいのしゅく)として開かれたことに始まります。耕地が少なく農業で生計を立てることが困難であったこの地で人々は生きるための副業として「絞り染め」の手ぬぐいを生み出しました。

有松に江戸の街並みが今も残っているのは、二つの大きな理由があります。

一つは、近隣に米軍の捕虜収容所があったことで戦火を逃れたという歴史的背景。
そしてもう一つは、戦後いち早く、この景色を守ろうと地域の人々が保存のために立ち上がったことです。

多くの人々の想いと努力に支えられた有松の景観は、日本の古き良き美しさを今に伝える、まさに稀有な場所といえます。

有松鳴海絞りのはじまり

慶長13年(1608年)、竹田庄九郎をはじめとする8名が知多・阿久比より、この地に移り住みました。
農業に適さない土地柄ゆえ、一行は生きる糧として新たな特産品を生み出そうと知恵を絞ります。

転機は名古屋城築城の折、九州・豊後の者が携えていた珍しい紋様の手ぬぐいとの出会いでした。これに着想を得た庄九郎は独自の絞り技法を考案。これが「有松鳴海絞り」のはじまりと言われています。故郷の特産である知多木綿にその技を施し、軒先に吊るして、東海道を行き交う旅人へ販売したところ、その目新しい意匠はたちまち評判を呼び、お土産品として圧倒的な人気を博しました。

その後、尾張藩が有松に生産の独占権を与え、手厚い保護政策を敷いたことで、有松鳴海絞りは東海道を代表する名産品として、揺るぎない地位を築くに至ったのです。

葛飾北斎 画『東海道五十三次』国立国会図書館デジタルコレクション
歌川広重 画『東海道五十三次之内 鳴海 名物有松絞』メトロポリタン美術館

歌川広重 画『東海道名所之内 鳴海有松絞』 
国立国会図書館デジタルコレクション

浮世絵と物語に描かれた、有松鳴海絞り

江戸時代初期、有松鳴海絞りの多くは藍染でしたが、17世紀後半にゆかたが庶民に普及すると、その技術は飛躍的に進化します。従来の藍に加え、紅や紫といった色彩豊かな染料が取り入れられ、華やかな意匠が次々と生み出されました。

東海道の要所に位置する有松は、参勤交代の行列やお伊勢参りの人々で常に賑わいました。その繁栄ぶりは葛飾北斎や歌川広重の浮世絵にも、鮮やかに描かれています。また、十返舎一九の滑稽本『東海道中膝栗毛』にも、有松は登場します。主人公の弥次さんが絞りの美しさに魅了され、手ぬぐいを購入する場面。彼は、布を絞る「技法」と、身を削る「苦労」を掛け合わせ、次のような歌を詠みました。

「ほしいもの 有松染めよ 人の身の あぶら絞りし 金にかえても」
(身を粉にして働いて稼いだお金を払ってでも、この素晴らしい有松絞りが欲しいものだ)

有松鳴海絞りの制作工程

有松鳴海絞りは分業制でつくられています。型紙を作る「型彫り」、布に下絵を写す「絵刷り」、布を糸で絞る「括り」、さらに「染め」「糸抜き」など、専門技術をもつ職人から職人へと一枚の布が受け渡され、ひとつの商品が完成します。絞りのやわらかで繊細な美しさを生み出す、有松鳴海絞りゆかたの工程をご紹介します。

01|図案~型彫り

昔は和紙の型紙を使用していたが、現在は丈夫で劣化し難いポリプロピレンを使用することもあるそう。

図案に合わせて絞りの技法を選定し、型を彫っていきます。図案の上に型紙を置き、柄に沿って鉄製のハト目抜きを用いながら、2〜3mmほどの小穴をあけ、型を作成していきます。精密で正確な彫りの技術が求められ、振袖では平均25万粒、ゆかたでは平均4万粒の穴によって、柄が表現されています。

02|絵刷り

60cmほどの型を繰り返し、絵刷りを行います。柄がずれないように手際よく刷毛で刷り込んでいきます。

彫り上げた型紙を生地の上に置き、青花※で柄を刷り込みます。糸を括る位置や絞る箇所の目印を、生地に記していきます。
※露草の花から取れる染料で、水で流すと消える性質を持つ。現代では化学染料で代用する場合もある。

03|絞り加工

絞りの模様を作る上で最も大切な工程。一粒一粒、丁寧に括られ、稜線が描かれていきます。

絞り加工は、大きく分けて「括る」「縫う」「畳む」の3種類。
絵刷りされた箇所を糸で括るもの、針で縫って絞るもの、巻き上げ台を使うものなど、さまざまな技法があります。緻密さとともに力強さが求められる、根気のいる手仕事です。 多彩な柄を生み出す「絞り加工」は、「一人一技法」ともいわれ、それぞれの柄に特化した技術を職人たちは持っています。

有松鳴海絞りでは、絞り加工の一部を海外(カンボジア)で行う場合もあります。
日本では絞り加工の後継者が年々減少しており、その技術を絶やさないために、職人たちは海外へ技術を伝えています。現在では、年間生産反数の約90%が海外で絞り加工されています。絞り上がった生地は、図案と照らし合わせながら、絞り漏れがないか丁寧に確認され、染色の工程へと進みます。

04|染色

流し染めを行っているのは、有松では2軒のみ。昔のままの技法を学びながら技術を継承しています。

染めの工程では、まず下絵の青花を洗い落とし、括り糸が解けないよう丁寧に染めていきます。
約20種類の染料の中から選び、少しずつ調合して理想の色を生み出しています。

染色方法には、単色に染める「浸け染め」と、多色表現を可能にする「流し染め」があります。
「流し染め」は、広げた生地の上から小さなジョウロで複数の染料を注ぎ、多様な色彩を表現する技法です。

色によって染まりやすい温度が異なるため、約60〜90℃の高温に保たれた状態で染め上げられます。また、染料を含んだ生地は非常に重くなるため、技術力に加えて体力も求められる工程です。

染め上がった生地は、水で数回洗い、脱水機にかけた後、天日で乾燥させます。

05|糸解き

染め上がった竜巻絞りの反物を一点一点、丁寧にピンセットで糸を解いている様子。

絞り加工で括られていた糸を解いていきます。染料が入り込まないよう固く糸留めがされているため、強い力を用いて糸を解きます。解く際には、生地を傷めないよう細心の注意を払います。

絞りの種類によって糸の解き方も異なります。生地の両端を持ち、手で引っ張って糸を外すものや、大きなピンセットを用いるものなど、それぞれの技法に適した方法で糸を抜いていきます。

一つひとつ糸を抜いていくと、括られていた部分が白く残り、ここで初めて絵柄が姿を現します。

06|仕上げ

糸解きの後、キズや染めムラの有無を細かく点検し、「湯のし」を行います。蒸気を当てながら縮んだ生地を引き伸ばし、反物の巾を整えていきます。

やまとの絞り染め さんちムービー 特設ページを見る

会期中、ギャラリー1階では「絞り染め」の魅力を身に纏っていただける受注会も同時開催いたしました。

やまとの各ブランド・店舗で展開している「絞りゆかた」を本イベントのために特別に集約。「きものやまと」「KIMONO ARCH」「Y. & SONS」「THE YARD」というコンセプトの異なる4ブランドのアイテムが一堂に揃い、初の試みとなりました。

株式会社やまとの全ブランドで展開する絞り染めをはじめとした夏を彩るアイテムたちが並びました。

季節を感じ、手仕事を纏うよろこび。人の手を介して生まれる価値と、時間をかけて育まれてきた技術を現代へとつなぐ営みを、感じていただければ幸いです。

改めまして来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。

次回は、2026年7月上旬に東京都内にてPOPUP EVENTを企画中です。
YAMATO Lab.の新しい挑戦にご期待ください。

皆様のご来場お待ちしております。