JOURNAL
読みもの
2026.01.06
Special Interview
スカジャン研究家・
テーラー東洋企画統括
松山達朗氏
スペシャルインタビュー
日本の技と感性が宿るジャケット
日本発祥の洋服——かつては米兵向けのお土産品として誕生した「スーベニアジャケット」。やがてそれは、日本の若者たちの間で「スカジャン」と呼ばれ、日本独自のカルチャーへと進化していきました。そんなスカジャンの魅力に取り憑かれ、ついには自費で世界初の専門書を出版。スカジャン研究の第一人者として知られ、現在はTAILOR TOYOの商品企画を手がける松山達朗さんにお話を伺いました。“雷に打たれたような”運命の出会いから、ヴィンテージスカジャンに宿る文化の奥深さ、そして「きもの」との共通点まで——。ものづくりの本質と、きものとの繋がりを探っていきます。
スカジャンとの出会い ―
感性を刺激された“あの瞬間”
最初の出会いは10代の頃、古着屋でアルバイトを始めた初日。お店の前で掃除していた先輩の背中に、思わず目が釘付けになりました。その先輩が着ていたのは、ヴィンテージのスカジャン。刺繍もデザインも本当に美しくて、まるで雷に打たれたような衝撃を受けたんです。当時は粗悪なスカジャンも多かったのですが、その一着は別格でしたね。それから一気に、スカジャンの世界にのめり込んでいきました。
松山氏が上梓した世界初のスカジャン専門書
ただ“かっこいい”だけじゃない ―
スカジャンの奥深い魅力
調べていくうちに、そのデザインの背景や、職人による刺繍技術にどんどん惹かれていきました。戦後の混乱期に、和装の刺繍職人たちがスカジャンの刺繍を手がけるようになった歴史があるんです。この刺繍、同じ図案でも職人の腕によって仕上がりがまったく異なる。刺繍の型で描いた下絵をもとに「横振りミシン」という特殊な技術を要するミシンを使って刺繍していくため、クオリティに差が出るんです。
ヴィンテージ市場では年代やサイズで価値を判断されがちですが、本当に大切なのは“刺繍の出来”だと思っています。そういう意味で、スカジャンときものには共通点が多いんですよね。刺繍技術の高さや色柄に対するこだわり、文化として育まれてきたものづくりの精神——。スカジャンときものは、決して遠い存在ではないと感じています。
好きすぎて、本を作った ―
スカジャン文化を未来へ
約35年前の1990年代、ハワイアンシャツやボウリングシャツにはヴィンテージをまとめた洋書がありました。でも、スカジャンにはなかった。その時、本という形で貴重なヴィンテージを記録することで、スカジャンの価値観がより明確になると思ったんです。素晴らしい技術や細部へのこだわりが詰まっているのに、それをまとめた書籍がない。だったら、自分で作ろうと。日本発祥の洋服だからこそ、日本人の私がまとめるべきだろう。そう思って自費出版でスカジャンの専門書を作りました。25歳のときのことです。
これが当時の本です。1994年に「JAPANESE EMBROIDERED JACKETS」というタイトルで出版しました。Vol.1では日本モチーフ、Vol.2ではアラスカやグアムなどの海外モチーフ、Vol.3ではミリタリーモチーフの特集を予定していたのですが、Vol.3は出版せず、後に全ての内容を網羅したスカジャン専門書の決定版「JAPAN JACKET」を作ったんです。スカジャンの歴史や魅力を伝え、文化として残していくためには、「記録すること」も大事だと思っています。
松山氏の本は高い評価を得て現在ではプレミア価格に
スカジャンの魅力 ―
デザインの奥にある、ものづくりの真髄
スカジャンには、知れば知るほど好きになる奥深さがあります。1着の中に歴史や文化、職人技が詰まっていて、背景を知るほどに愛着が湧いてくる。そういうところも、きものと通じるものがあると感じています。スカジャンの刺繍は、ただ下絵をなぞるだけではありません。糸の色選びや重ね方、運針の方向によって、表情がまったく変わるんです。この「横振り刺繍」には、職人の技術やセンスが如実に現れます。
ミシンの針は一定方向にしか動かないため、柄に合わせて布のほうを手で動かしながら刺繍していく。たとえば鷲の羽や虎の毛並みに合わせて、針足(運針)を変えることで立体感や陰影が生まれるんです。これが本当に難しい。でも、熟練の職人の仕事って、一目でわかるんですよ。
TAILOR TOYOでは、そうしたヴィンテージスカジャンの魅力を絶やさないように、復刻モデルでも糸の色や刺繍の重ね方には徹底的にこだわっています。
虎の縞模様に、横振り刺繍ならではの立体感が表れている
響き合う感性と技術 ―
きものとスカジャン
今回のコラボレーションで生まれた「SUKAJAN KIMONO」では、ヴィンテージスカジャンの刺繍を再現し、オリジナルの形で仕上げました。スカジャンの最大の特徴とも言えるリバーシブルで着られる仕様も取り入れているんですが、たとえばブラックの表面は白を基調とした龍の刺繍が黒いボディに映えるモノトーン調のデザインです。赤い龍の舌が全体のアクセントになっていますよね。対してリバーシブル面は鮮やかなグリーンのボディに富士山や松の木、満開の桜、鳥居や仏塔など、春を迎えた日本の美しい風景が刺繍された通称「ランドスケープ」柄です。刺繍の技術だけでなく、日本画のような構図や文化も、このデザインには息づいています。そういう意味では、異文化コラボではなく、“同じ日本文化の融合”だと思っています。
袖のパイピングやリバーシブル仕様のリブもスカジャンの特徴
未来へつなげる ―
スカジャンときもの
スカジャンもきものも、日本の衣文化を象徴するものだと思っています。でも、着てこそ「文化」ですよね。デザインや色に惹かれて、「かっこいい!」と思って着るだけでも勿論いい。でも、その裏にある歴史や技術を知ると、もっと面白くなる。選ぶものや組み合わせでその人らしさを表現できたとき——スカジャンときものには、きっとファッションの本質的な部分で共通の面白さがあると思うんです。これからSUKAJAN KIMONOに触れる方には、そういう“本物の面白さ”を感じてほしいですね。
TAILOR TOYOが所蔵する希少なヴィンテージスカジャン
Column|なぜ「スカジャン=横須賀」?
スカジャンといえば「横須賀発祥」と思われがちですが、実は戦後の東京・銀座にあった米軍向けの露店街で生まれたもの。当初は米兵のお土産として作られた刺繍入りのスーベニアジャケットを、1970年代頃から東京の若者たちが横須賀・ドブ板通りで購入するようになり、「横須賀ジャンパー」、略して「スカジャン」という呼び名が定着しました。
「スカジャンって、ただの服じゃないんですよ。作った人の技と気持ちが縫い込まれてる。それって、きものと一緒ですよね。」
TAILOR TOYOは、スカジャンの持つ背景を大切にしながら、一過性のブームではなく、文化として継承しています。きものも、スカジャンも、日本の感性と技術が育んだ、“ものづくり”。SUKAJAN KIMONOは、そのふたつが出会って生まれた、新しい衣服のかたち。日本の衣文化を、軽やかに、次の世代へつなげます。
スカジャン研究家・テーラー東洋企画統括 松山達朗氏
1969年、石川県生まれ。高校卒業後、愛知県の有名ヴィンテージショップに勤務。そこで出会ったスカジャンに魅了され、1994年に世界初のスカジャン専門書「JAPANESE EMBROIDERED JACKETS」を出版した第一人者。スカジャン研究家として名を馳せ、その後テーラー東洋を有する東洋エンタープライズ株式会社に入社し、現在はヴィンテージスカジャンの復刻など、企画統括を担当している。