「ゆかた学」 -200年の変化から最新トレンドまで- (後編)

こちらは、平成30年(2018年)7月9日 11:00~12:30 文化服装学院ファッション流通科 スタイリストコースで行われた当社会長 矢嶋孝敏講義「ゆかた学」の講義内容を逐語訳したものです。 第2部は「ゆかたから学ぶ 着る文化論」について講義します。

これまで、ゆかたの成り立ちとその歴史について論じてきました。次は、テーマを「ゆかたから学ぶ 着る文化論」に移します。

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ゆかたから学ぶ 着る文化論

洋服ときもの 着方の違い

そもそも洋服と和服は同じ服ですがその「着る」は全く異なるもので、洋服はTシャツやセーター、トレーナー、ジーンズからわかるように、「かぶる」と「履く」に分かれる二部式がほとんどです。 また、着る前から洋服自体にカタチができています。TシャツはTシャツでしかないし、ジーンズはジーンズでしかない。ジーンズをTシャツのようには着られません。 ジャケットも、シングルボタンのものをダブルボタンのように着ようと思ってもできないですよね。

一方和服は「羽織る」・「巻く」・「結ぶ」、が1つになった一部式です。そのうえ、洋服のようにカタチがありません。洋服のボタンやファスナーは誰が留めても同じ結果になるよう、ボタンとボタンホールは位置が固定されていますし、 ファスナーも1ミリずれてしまっただけで噛んでしまうでしょう。それに対してきものは、その時の気分で着方が変化します。

今日私が着ているのは弊社ブランド DOUBLE MAISON の新作で、綿85%・麻15%のゆかたです。衿のV字を比較的狭く着付け、羽織を着ることできもの風に見せているのですが、明日もまた同じ着方をすることはできません。 おそらく今日と明日では、背中心が何ミリかずれるでしょう。帯にしても私は背中に回して手の感覚だけで結んでいますから、全く同じ形にはなりません。 着方がその時々で違う、それがきものの要求する「着るという意志」なのです。

また、直線裁ち・直線縫い・平面仕立てのきものは、ヒトが中に入って着ることで初めてカタチがつくれます。 巻き付けたきものを帯で自由に結ぶという行為はファッションの創造そのもので、モノではなく着るヒトが主体であり、ヒトが最も主体的なカタチをつくる服、というのがきものの最大の特徴です。 そのため、気持ちが充実しないときものは上手く着られません。Tシャツとジーンズは、寝ぼけていようと二日酔いだろうと着られますが、きものはそうはいかない。 前合わせが決まらなかったり、女性であればおはしょりがぼこぼこになってしまったり、何とか着られても途中で着崩れたりしてしまいます。

今は絶版となっていますが、「ベトナムに平和を!市民連合」を組織した1人である社会思想家の寺井美奈子氏が1960年代に書いた「ひとつの日本文化論」で、 「直線のきものを曲線だらけの身体にあわせて着るという二律背反が生む美」、「直線を曲線の方に引き寄せるのが着こなし」、 「ひとりひとりの人間が無意識とはいえ、前を合わせて腰で紐を結ぶことで、個体に密着してきものを<着る>ことから<型をつくる>という文化を生み出す」、と語られています。 私が今まで読んだきものの本の中でその思想性の高さに衝撃を受けた本の1つなのですが、 着用者自身が手を加えなければ着ることができない、というきものの着方こそ、日本人の心と文化を生み出す根源であり「着る」ということの文化性を示唆しています。

衣食住という言葉がありますが、「着る(衣)」は人間にだけ帰属しています。 食と住は動物や虫、魚といった人間以外の生物も営んでいますが、服を着ているのは人間だけでしょう。ペットが洋服を着ているのは彼らの意志ではなく飼い主の人間によるものです。 和・洋に関わらず、服を着るということは本来とても文化性を持ったものなのですが、Tシャツやジーンズのようにあまりにも文明的に、便利になってしまったがために、着るということの文化性が忘れられ、インスタントになってしまいました。 料理で例えると、カップラーメンは誰がつくっても同じ味になりますよね。誰それがつくったら美味しいということはなく、100℃のお湯を入れて3分待てばみな同じ味ができあがる「文明」です。 しかし手料理は、味噌汁ひとつとってもつくる人によって味が違う。つまり、人によって結果が異なる「文化」なのです。

確かに文化には面倒な一面もあります。しかし人間は元々面倒なものなのです。皆さんの中に、今まで病気も怪我もしたことが無い人は誰一人としていないでしょう。 人間の身体は取り替えがきかないですから、このボールペンのように壊れたら捨てればいいというわけにはいかない。人間の身体は壊れても治しながら使っていくように、文化的にできているのです。 私は文明を否定しているわけではありません。しかし文明だけだと何かが欠落して心や身体のバランスが壊れてしまいます。 インスタントな料理ばかりだと、手料理を食べたくなりますよね。 それと同じことで、何も考えずに着られる Tシャツやジーンズも良いですが、たまには「着る」を意識しないと着られないゆかたやきものを着てみることで、人間の持っている本来の文化的な面倒さを思い出す。 そういった機会が必要なのではないでしょうか。

最新ゆかたトレンド事情

では最後に、最新のゆかたトレンド事情をお伝えいたします。各ブランドの MD に、今年のゆかたのトップ予想をしてもらいました。

きものやまとRyo -涼- 和色朝顔
¥29,900(税抜)
KIMONO by NADESHIKO桜花ストライプベージュ
¥29,900(税抜)

やまとは水色×黄色の朝顔柄で、KIMONO by NADESHIKO はストライプの桜花。 特筆すべきは両ブランドともポリエステル100%のゆかたという点で、昨年も最終的に一番売れたのはポリエステル100%だったのですが、予測の段階でトップに挙がるのは今年が初めてです。

DOUBLE MAISON午後三時、花をそそいだら・黄
¥29,000(税抜)

DOUBLE MAISON は綿75%・麻25%の黄色のゆかたで、アンティークのピッチャーを傾けると花がこぼれ落ちて花瓶に注がれる、という柄です。ブランドディレクターの大森伃佑子氏ならではの、19歳の少女の発想ですね。

THE YARD遠州 手しぼ縞 甕覗
¥43,000(税抜)

THE YARD は綿70%・麻30%の遠州手しぼゆかたで、日本古来の色名をヒントに経糸と緯糸の組み合わせを選び、甕覗(かめのぞき)という色を表現しています。 特徴的なシボの加工は滋賀県の近江で行われており、このシボにより衣類と肌との接触面が少なくなり、風通しが良く爽やかな着心地となります。

Y. & SONSStripe/Black(With tailoring)
¥39,000(税抜)

Y. & SONSは綿100%の黒ストライプで、生地にはドライコットツイストという機能糸を使用しています。 この5ブランドだけでも素材は様々で、それだけゆかたが多様化しファッションになったということです。

ゆかた(左)ときもの風のコーディネート(右)

ゆかたときもの風のコーディネートを比較してみると、最も売れている価格帯のゆかた、帯、下駄でトータル27,700円になります。 そこに羽織や半衿、帯締、足袋をプラスすると、金額は49,600円に上がりますが、シルエットが変わってぐっときものらしくなりますよね。 ゆかたからきもの風の着こなしへの変化は、昨今確実に増えてきています。

自由になるゆかた、きもの

本日の内容をまとめると、200年前は風呂上がりの浴衣であったものが、150年前から寝巻になり、100年前から部屋着に、そしてこの30年で花火着として外に着られるようになった。 今の若い人にとっては最初からゆかたは花火着という認識ですが、ゆかたはこのような歴史を辿り、ファッションだからこそ時々の社会環境に合わせて変わってきたのです。 同時に200年間で色柄や素材、機能性が進化し、絶え間ないイノベーションの結果、今ではゆかたはファッションとして確立しました。

これはゆかたに限らずきものにも言えることで、今皆さんがきもののルールだと思っているものは、せいぜい100年の歴史しかありません。 ほとんどのものが戦後にできたルールですから、それは今後もどんどん変わる可能性があります。ファッションである以上固定的に考える必要はない、という証明をゆかたがしてくれました。


DOUBLE MAISON のゆかたがとても可愛くて着てみたいと思うのですが、着ていく場所が花火大会やお祭りくらいしか思いつきません。 もっと着る機会が増えたらいいなと思うのですが、そういった場面は何かありますか。

矢嶋
皆さんは特別な日にゆかたやきものを着る、と思っていますよね。でもそれは違うのではないですか。 私はこう考えます。花火大会やお祭りの日に限らず、ゆかたやきものを着ることによって、普通の日を特別な日にできるのです。それがファッションの力でしょう。 ですから、どういう時にきものを着ていいのか、と悩む必要はありません。 ポピュラーなお出かけ先と言えば花火大会やビアガーデン、屋形船等が挙げられますが、 例えばお気に入りのカフェに行くといった何でもないお出かけにきものを着てみたり、神楽坂のようなきものの似合う街を散策してみたり、神社へのお参りもいいですね。 私の娘は大学生の時にゆかたで野球応援に行っていました。同じ場所に行くにしても、洋服と和服とでは見える景色や非日常性が変わります。 それはきものやゆかたを着ている皆さんに注がれる視線が普段と異なるからです。 特別な日にきものを着るのではなく、きものを着ることで普通の日を特別にしてください。

DOUBLE MAISON 公式サイト >>

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