やまとロゴ

「きもののお手入れ」

  年明けから4月頃まで、お正月、成人式、入学式や卒業式など、いつも以上にきものに興味が集まるのがこの季節。日頃着る機会の少ない方でも、この時期だけお召しになる方も多いのでは。そして、たまに着ると気になるのがお手入れについて。大切なきものだからこそ、長くキレイな状態で着ていきたいですよね。

  でも、きもののお手入れって何をすればいいの?きもの専門店とクリーニング店に持って行くのとではどこが違うの?そもそも、どうやってキレイにしてくれるの?
お洋服のクリーニング以上に疑問が多いきもののお手入れについて、やまとでお手入れに関する加工をお願いしている加工専門業者、株式会社さかたや様にお話をうかがいました。





福居雅哉社長


   JR浜松駅から車を走らせること20分。のどかな町に、さかたや様はあります。創業80年を超える老舗ですが、もともとは洗い張りを専門にしていました。洗い張りとは、きものをほどき、反物の状態に縫い直してから全体を洗う昔ながらのお手入れ方法。きもの人口が減るにつれ、洗い張りだけではいけない、と様々な加工を手掛けるようになり、今では浜松を代表するきもの総合加工業者です。今回は、福居雅哉社長が、やまとでお願いしている主要加工の工程について詳しくお話しくださいました。


クリーニングと何が違う?「京洗い」

  何度かきものを着用し、「そろそろ洗った方がいいかしら」ときもの専門店にきものを持って行くと京洗いを提案されます。きもの全体についた汚れを落とすための加工で、きもののお手入れとして最も広く利用されています。



  この京洗い、丸洗いやクリーニングとは何が違うのでしょうか。

  「多くのクリーニング店の場合のように、ソープ(ドライ用洗剤)や水分などを添加した石油系溶剤で丸洗いする洗い方は、デリケートな正絹きもの場合、縮みや色移り、ソープ分の残留など心配が多いのも事実です。しかし当社では職人がきもの一枚一枚を目で見て、まず汚れている部分や衿や袖口などの汚れやすい部分を丁寧にブラシで予洗いを施します。その後ウォッシャー(洗浄マシーン)で添加物を抑えたキレイな石油系溶剤ですすぎ洗いを行うことできもの全体の汚れを落とし、余分な残留物も残りにくくなります。
  きものにソープ分などの残留があると『新はじく絹のきもの加工』(本記事後述のきもののガード加工)の効果減につながってしまうので、とても気を付けています。」

 



   ソープと溶剤を使い分け手作業で汚れを優しく洗い落してから、ウォッシャーでしっかりゆすぎ、脱水機にかけてから乾燥室で乾かします。
「このウォッシャーも今はもう製造されていなくて、40年近く使っているんです。全自動の機械も購入していますが、結局このアナログな機械が一番使い勝手が良いです。」
全体の汚れを落とす加工ですが、機械に入れて丸洗いをしているだけではないのですね。
そして洗い上がったきものの仕上げ作業を見せていただき、再度驚きました。




 

   2kgもある業務用アイロンを、常に2、3mmほど浮かせた状態で作業しています。
「きものを傷めないために、プレスするのではなく蒸気と熱で仕上げます。ほとんど女性ですがみんな一日中この浮かせた状態で作業をしていますね。」
実際に持たせてもらいましたがずっしりと重く、1枚にアイロンがけするのも難しそうです。

 思っていた以上に丁寧に人の手で仕上げられる京洗い。デリケートなきものならではの気遣いが随所に施されています。
京洗いでは油性の汚れを落としてくれるので、ファンデーションや皮脂汚れはもちろん、大気ガスなどの油性物質によって全体に付着しているホコリなどもキレイにすることができます。しかし、気を付けなければならないのが汗。目に見えないので、京洗いをしたら汗も一緒に落ちているような気がしますが…。
「汗は主に水溶性の汚れなので京洗いでは落とすことができません。時間が経って汗の成分が酸化すると黄変してしまいますから、ぜひ汗取りをしてください。」




目に見えない汗はきものの大敵!「汗取り」

 とっても寒い日でも、帯をほどくとなんだかきものが湿っていることはありませんか?特に帯周りは、自分でも気付かないうちに汗をかいています。そしてこの汗、きものにとっては大敵。見えないから気付きにくい上、酸化することで黄変になりやすいのです。福居社長曰く「黄変ジミは落とすのが本当に難しい」とのこと。大切なきものを美しいまま保つために、汗のケアはこまめにしておきたいものです。


 

   汗取りでは、汗をかきやすい帯下周りを中心に水で洗浄作業を行います。目に見えない汗ですが、どのように落としていくのでしょうか。
   「汗は水分を除けば9割が尿素、残りは塩分、たんぱく質などです。汗をかいた箇所に霧吹きで水を吹き付け、汗と水をしっかりなじませます。そして洗剤をつけた専用ブラシでトントンと叩き落します。仕上げにスプレーガンで水を噴射して下から吸引し、ドライヤーで乾かして完了です。」

   基本は帯下周りへの加工になりますが、お茶をされている方でひざ裏の汗が気になる場合や、夏場で衿元に汗をかいた時は、お預かりの際に店舗のスタッフに伝えれば対応してくれるそう。すべて手作業だからこそ、お客様のご要望にも細やかに対応してくれます。手遅れにならないよう、気になった時には汗取りを忘れずに。




気を付けていても出来てしまったときには・・・「シミ抜き」



     京洗いと汗取りでケアしていても、食べこぼしや泥ハネなどでうっかりシミをつくってしまったり、あるいは目に見えなかった汚れが時間が経つにつれて姿を現して来たり…。シミができてしまったときのショックはとても大きいです。 「汚れが付いてしまった時、絶対に擦ってはいけません。擦ると生地がスレたり繊維の中に汚れが染み込んで落ちなくなってしまいます。」

シミには様々な種類があり、食べ物のシミや泥はね、たんぱく質のシミや黄変してしまったシミなどそれぞれによって対処法も異なります。 思わず焦ってしまいますが、慌てずにお手入れにお持ちください。


実際にお客様からお預かりしたきもののシミ抜きを見せてもらいました。胸元にできてしまった目立つ黄変ジミ。どのように落としていくのでしょうか。

 

 

 

 



    まずはシミの部分を良く洗ってから薬品を塗布します。その部分に平(ひら)ゴテという専用器具で熱をかけ、薬品の反応を促進させます。そして汗取りの時にも使用していた専用ブラシで丁寧にシミと薬品を叩き落していきます。


    「シミの成分がたんぱく質なのか、でんぷんなのか、酸化してできてしまったものかなど成分を見極め、薬品や洗剤の分量を変えていきます。」

  薬品によってシミが落とされた部分は色が抜けてしまうこともあるので、何色もの染料を調合し、シミ抜きした職人が刷毛や筆を使って元の色に出来るだけ近くなるよう染めを施します。
落とすのはもちろん、彩色にも高度な技術が必要なシミ抜き。社長が「一番大変」と話す意味が分かりました。

  シミ抜きは薬品を使うため、頑固なモノほどきものへのダメージが大きいのも事実。できれば早めに落としておきたいものです。繊維に汚れが染み込む前に、軽い汚れなら簡単なお手入れで落とすことができます。
気になる衿元の汚れは「ファンデーション落とし」で。

 

  どんなに気を付けていても一度着用するとついてしまうファンデーション汚れ。全体的な汚れがなければ、部分的に溶剤を使ってキレイにしてくれるこちらの加工がおすすめです。

 

 

 

  また、1ヵ月以内についた5㎝以内のシミ1カ所であれば、「ワンポイントシミ抜き」で落とすことができます。

  やまとでは通常のシミ抜きを7,000円(+税)から承っていますが、ファンデーション落としは1,000円(+税)、ワンポイントシミ抜きは2,000円(+税)とお手頃価格です。きものへの負担を減らすためにも、ぜひ早めに、お気軽に店舗までお持ちください。


大事なきものを守ります「新はじく絹のきもの加工」

    ここまで、きものが汚れてしまったときのお手入れについてご紹介してきましたが、やまとでは、きものに汚れが付きにくくし、保管も安心なガード加工もご用意しています。
「きものは洗わないで済むのなら洗わないに越したことはありません。洗えばキレイにはなりますが、その分生地や縫製に少なからず影響がありますから。」と福居社長。「新はじく絹のきもの加工」を施すと、フッ素の撥水樹脂が水や油をはじいてくれ、さらに防カビ・防虫効果もプラスされます。汚れにくくするのはもちろん、汚れても落ちやすくしてくれるので、特にデリケートな正絹のきものにはぜひおすすめの加工です。
加工後も見た目や肌触りはほとんど変わらないのですが、一体どのように加工されているのでしょうか。

   



  「反物を撥水加工溶剤に浸し、加工機の乾燥庫内でゆっくりと乾かします。溶剤の濃度や乾燥のスピードは生地の厚さや種類により変えています。使用している加工機もオリジナルのもので、撥水効果とその耐久性を高めるために開発したものなんですよ。」
   



  金彩などデリケートな柄や厚手の刺繍のものなど加工機に通せないものは手動の加工機で、仕立て上がりのきものはハンドスプレーを使用し手作業で行います。
加工後の生地はこの通り、水がコロコロと滑り落ちるようにはじかれます。まるで超撥水生地のよう。撥水樹脂が繊維に浸透しているため通気性が良く、効果が長続きするのです。




“汚れを落とすこと”がお客様の望みではない



    お店に預けたきものは、納品時にはキレイな状態になっているため、その間にどのような加工がなされているのか全く想像がつかないものです。機械化が進む時代ですが、きものの繊細さにはやはり人の手と目が不可欠とのこと。思った以上にアナログで多くの人の手が関わり、集中力と技術を要する丁寧な仕事であることに驚きました。
   



   

   自ら作業をしながら、終始ニコニコとお話しくださった福居社長。とても印象的な言葉がありました。

  「ともすれば私たちは目の前のきものの汚れを落とすことに夢中になり、単純な作業になってしまいます。でも、お客様が求めているのは汚れを落とすことではないんです。大事なきものをキレイにして、素敵にきものを着たい、というのがお客様の本当に望んでいることなのです。そこを忘れてはいけないですし、そういう目線で見ると作業のやり方も大きく変わってきますから。いつも社員にはそう伝えています。」

  
   お客様の顔が見えない作業場ですが、目の前のきものだけを見るのではなく、そのきものを着るお客様のことを常に考えているというさかたや様。
それぞれに思い入れのある大切なきものだからこそ、預けた先が、持ち主と同じ気持ちで丁寧に作業をしてくれる方たちだととても安心できます。

  大事なきものをずっと美しく着るため、今一度ご自宅のきものをチェックしてみてはいかがでしょうか。何かお困りごとや少しでも気になることがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。頼れる職人と共に、お手伝いさせていただきます。