「天然染料で生まれ変わった琉球“花織”」−1

沖縄の伝統的な織物・花織。その花織が5年前に大きく転換期を迎えました。沖縄に自生する植物から取り出す天然染料にこだわり、伝統に新しい風を吹き込んだ二人の作り手に生まれ変わった花織についてお話しいただきました。


はじめに


矢嶋:本日の対談は「花織について」と題していますが、正確に言いますと「今の花織」、更に言えば「5年前から生まれ変わった花織」がテーマです。花織の技術は戦後、與那嶺貞さんが復興させてからずっと受け継がれていますが、技術が受け継がれることと、それが今売れるデザインになることとは全く関係がありません。昔の技術を受け継ぐことは一つの価値ですがそれだけで売れる商品はできない。売れる商品を高い技術を継承しながらどれだけつくれるか、が大事です。
  昨年もその例として、城間栄順さんの紅型についてKIMONOライブラリーVol.7(2016年8月)で取り挙げています。沖縄がアメリカに占領されていた時代に、「これからはきものをつくっても難しいから、テーブルクロスやコースター、ネクタイなどの沖縄らしい民芸品のお土産をつくったらどうか」と提案されたのに対し、栄順さんは「それは違う、テーブルクロスやコースターだけをつくっていたら技術レベルが下がり、沖縄の伝統工芸である染めの唯一の柱である紅型の技術が廃れる。」と答えました。そこで今までやってなかった絵羽でぼかしの紅型きものにまで挑戦して、最高水準の紅型を創っていったのです。その例と今回の対談は通じるものがあるでしょう。
  もともと花織は技術としては高いものですが、色はどちらかと言えば地味で沖縄の匂いや風を感じがたいきらいもありました。その花織が何故、そしてどう変わってきたのか、を本日お伺いしていこうと思います。

  では本日のパネラーをご紹介します。お一人目は真壁節子さんです。元々は読谷山事花織事業協同組合の技術検査員で、この方が検査証紙を付けないと出荷ができず不合格だとB品になる、という大変怖い立場の方でしたが(笑)、今は花織の織者の第一人者です。
  お二人目が花城武さんです。やはり読谷山花織事業協同組合で染色を担当されており、今は読谷にある工房真南風(まふえ)の工房長として草木染の染色に専念されています。組合にいた6年前と今とでは飛躍的に染色技術が進歩していて、グライダーとジェット機くらいの違いがあります。
 まず真壁さんにお伺いしたいのは「色」についてです。先ほどお見せした昔の花織と今の花織は、全く色が違いますよね。なぜ、たった5年間でこれほど変わったのでしょうか。



真壁:元々組合にいた時は、どちらかと言えば暗い色が多かったんですね。今は花城さんが草木染に力を入れ様々な色を出すようになったことで、きものや帯のトーンが綺麗に出るように織れるようになりました。以前は黄色や緑など2~3色しかなかったのが、今は薄い色から濃い色まで非常に多くなり、明るくなりました。特に中間色が増えていると思います。

矢嶋:例えば同じ青で何色くらいありますか?また色が豊富になったことで、他にも何か変わりましたか。

花城:青だけでも15色くらいはつくれます。

真壁:明るい色が増えたことが第一の変化ですが、色が増えたことで、暗い色から明るい色にいきなり変わるのではなく、徐々に明るい色を入れるとどういう風になるか、という挑戦ができるようになりました。



矢嶋:それは濃淡のグラデーションができる、ということですか。

真壁:そうですね。またこれも挑戦中なのですが、その濃淡の間に違う色を1、2本でも入れると雰囲気が全く変わるんです。まず地色の濃淡ができ、その上に花織の名のように花が咲く、というように柄ゆきが増えてきたんですね。沖縄の紅型は顔料を用いた染めでなかなか色を混ぜあわせることができず、濃淡のグラデーションは出しにくいので隈取ぼかしという技法を発明しました。織物はそもそもぼかしが難しいのですが、それが可能になったのは色が豊富になったからです。

矢嶋:豊富になった色を見てどう思いましたか。

真壁:色が増えていくにつれ次はこんな色に挑戦したいな、と意欲が湧きます。6年前には紺の色目はせいぜい2色、赤は1色でした。それが今では紺だけでも約20色、全部で約200色まで増えたことで、明るい沖縄らしい濃淡が出せるようになりました。


矢嶋:花城さんに伺いたいのですが、何故それほど色数が増えたのか、また以前との違いも教えてください。

花城:以前は色数を求められておらず、必要な色だけで良い、という感覚であったので、組合時代はあまり色数を探しませんでした。しかし工房真南風を設立するにあたって決断し目標に掲げたのは、「化学染料は一切使わず、草木染だけで染色する」ことでした。
  今まで化学染料に頼っていた染色を草木染だけで、となるとどうしても不安が多く、当時は数多くの染色を重ねて色数を探すことからスタートしました。そこから草木染の面白さに憑りつかれてしまって…。工房を設立してからの1~2年は、染め切ったと言えるくらいに色んなものを実験し掛け合わせました。その結果ある程度の色数ができるようになり今でも挑戦し続けていることで、これだけの色数になったと思います。


矢嶋:素人考えだと化学染料の方が多く色数が出せるように思いますが、逆なんですね。

花城:僕も知らなかったんですが、逆でした。化学染料が染料としては上だと思っていたのですが、使わないと決めたので前に進むしかないと。しかし染めてみると意外と色数が多く、かつ綺麗に染まったのが事実です。

矢嶋:なぜ一般的には化学染料に頼るのでしょうか?

花城:組合組織の方針でも化学染料を使って欲しいとあったので、その当時は何の疑問も持たずに染めていました。その理由は化学染料は安く手に入ること。色落ち色あせしにくいこと。もう一つは混ぜ合わせたグラム数を記録していれば同じ色が出るからです。一方、天然染料はそんな簡単なものではなく、染める時の温度や湿度、染めの速度などによって発色が全然違うのです。


矢嶋:色とは光の乱反射で光が物体にあたって反射した状態を見る訳ですから、同じ染料で染めても、羽二重か縮緬かで違う色に見えますよね。それを同じ色とは言いません。天然染料で染めた方が色数が多く綺麗に見えるというのは、実は私にとっても大発見でした。その過程では花城さんも驚きの連続だったと思いますが、そのエピソードをお願いします。

花城:先ほど化学染料は均一な色になる、とお伝えしましたが、例えば化学染料で黄色を染めた場合、ひとつの色の集まりのような単一黄色で染まっているように感じます。一方草木染の場合は、黄色ひとつをとってもその中に明るい色の分子もあれば暗い色の分子もあって、それが自分の求めている黄色に染まっていくような、色自体に奥行きがあるのを感じたんです。それを掛け合わせることによってより深くなっていく、そういう感覚が草木染にはあります。(2へつづく)